1. はじめに
2011年に学園都市が開かれたのち,旅客が増加した瑞霞電鉄は混雑が懸案事項となった.
そのため,経営陣は 見霄ヶ崎 方・国立研究所 方間を運転する列車を最低3両編成とすることを決定した.これに対応する車両として導入されたのが 2000形電車 である.
2016年4月2日 のダイヤ改定から,2000形・2030形ともに 10 編成ずつ,計 20 編成の運行が開始した.
2. 背景
2-1. 当時における輸送の概況
瑞霞電鉄では 2011年 に学園都市の使用が開始されて以降,諸島民の数が年々増加している.諸島民が増加するということは,すなわち,瑞霞電鉄の旅客数が増加することである.
旅客の増加に対応するため連結両数の増加やダイヤ改定等で対応しているが,限られた車両数で対応しなければならないために限度がある.
特に学園都市では,研究者や学生の増加が著しく,朝間時間帯は瑞霞電鉄において最も混雑している.
2-2. 要求仕様
本線系統 3 両化計画により,3 両を 1 編成とする.
他編成との連結は,混雑時に限られるため,全面は非常用貫通扉のみとする.
従来車と連結可能な仕様とする.
混雑緩和のため,座席はロングシートとする.ただし,従来車との違和感を防ぎ,新型車両を受け入れてもらうために,セミクロスシートを備えた車両も併せて導入する.
乗降時間短縮のため,ロングシート車両は,両開きの側引戸を各車両 3 箇所ずつ設ける.
セミクロスシート車両は,両開きの側引戸を各車両 2 箇所ずつ設ける.
各側引戸の鴨居,側引戸間天井,車端部天井に n インチワイドモニタの車内案内表示装置を導入し、案内性の向上を図る.
その他バリアフリー設備を導入する.
これまでにない車両を期待する.
3. 外観
3-1. 車体
車体の材質はステンレス鋼とした.瑞霞電鉄は海沿いを走行し,一部区間においては海上を走行する路線であることから,塩害対策のためである.
前頭部は,従来の向かって中央に配置される貫通扉とは異なり,左寄りに非常用貫通扉を配する仕様とした.連結は混雑時間帯に限られるため,日中時間帯は使用しないためである.また,貫通扉ではなくなったことによって前頭部の形状に自由度が生まれ,曲線を用いた形状とした.従来の切妻型のスタイルから脱却し,新たな瑞霞電鉄のイメージが生まれることを期待する.
屋根上にカバーを配して,一体感が生まれる外観とした.
3-2. 外部塗色
2000形電車 では,全体的に配色を一新した.
前頭部の塗装は,正面下部に黄色,窓周辺から屋根にかけて黒色,側構を濃紅色に塗装した.正面に黄色を配することにより,警戒色としての役割を持たせている.
側構は幕板部の上部から屋根上カバーにかけてと,腰板部の下端に濃紅色を配して全体を引き締まらせる大胆な色遣いとした.従来は車両腰部に配した濃紅色の腰板帯により瑞霞電鉄の車輌であることを表していた.
側引戸とその周囲に黄色を配した.ホーム上で待機する旅客に対し,乗降口が一目で分かるようにした.
2030形 は,側窓の下にも黄色を配した.
3-3. 側引戸
2000形電車 の側引戸は両開きとした.旅客を円滑に乗降させるためである.2000形 は片側 3 箇所ずつ,2030形 は片側 2 箇所ずつ設けた.
黄色のカラーシートを貼付し,乗降口であることを明確にすると同時に,車体のアクセントとした.
駆動方式は電気式とする.電気式とすることで床下にタンクを配さなくてよいぶん,他の機器のスペースとして使えるはずである.電気式ではあるが,細かい仕様は決めていない.どうせほとんどここは読まれない.
3-4. 転落防止幌
各車両の連結面間に,上下 2 段の転落防止幌を設置した.これにより、ホーム上の旅客に対する安全性が向上した.
転落防止幌のゴムの配置は,急曲線に対応するため,次のように交互に配置した.海側前位・陸側後位は 1 段目と 3 段目にゴムを配置し,海側後位・陸側前位を 2 段目と 4 段目にゴムを配置した.
3-5. 標識灯
前面から見た配置は,従来車から変更していない.前頭部の上部に前部標識灯を 1 灯,下部に後部標識灯を左右対称に計 2 灯配置している.
3-6. 行先表示装置
行先表示装置は多色 LED 表示機を新規に採用した.多色 LED 表示機は,瑞霞電鉄の多彩な種別を色で表現することが可能である.従来の幕式と同様に,旅客の誤乗防止に力を発揮するものと期待している.
4. 車内設備
4-1. 座席配置
2000形 は,全ての車両をロングシートとした.混雑緩和のため,従来の形列にあったクロスシート車両の設定を取りやめた.各車両において側引戸間を 6 席,車端部を 3 席とした.
2030形 は,セミクロスシート車両とした.全てをロングシート車両にしても,ロングシートに不慣れな旅客=島民が戸惑うと考えたからである.
なお,2000形電車 の各車両陸側後位(果最島造船所に向かって左後方)にフリースペースを設けるため,この箇所については席を設けていない.
4-2. 座席
座席はロングシート,セミクロスシートともにハイバックシートとし,頭部には枕を設けた.従前の車両と違和感を極力少なくするためである.
座面高さは 450 mm,背もたれの高さは枕を含めて 850 mm とし、座面と背もたれの角度を 105° となるように設計した.
座席の布地は化学繊維とした.色はダークグレー色を基調とし、アクセントとして黄色を取り入れている.枕は衛生上等の観点から合皮を使用した.
座面の柔らかさは,見霄ヶ崎・国立研究所間で運転される,所要時間 55 分 の急行列車を乗り通しても腰や臀部に痛みを感じない程度の柔らかさとしている.
座席間には,概ね 2 人あたり 1 本となるよう,湾曲したスタンションポールを設置した.着席時又は立席時における補助,定員着席の促進,安全性の向上に寄与できるよう図っている.
4-3. 窓
窓は,車両中央部の大型の側窓を固定窓とし,車端部の小型の側窓を開閉可能とした.開閉可能な側窓が少ないことにより車内換気が難しくなることから,小型の強制換気装置を空気調和装置と併設し,常時換気できるようにした.
妻窓は転落防止幌の新規設置並びに電気配管及び空気配管の都合により,設置を省略した.
4-4. カーテン
カーテンは下降フリーストップ式カーテンを採用した.柄は無地だと寂しいので,何かしら入っていると思われる.
4-5. 網棚
網棚は,線路と平行に2枚のステンレス板を配し,2枚の板の間に透明な強化ガラス板を配する方式とした.これにより,下から見上げたときに手荷物を認識しやすくしている.
網棚の高さは 1xx0 mm とすること(1650 mmくらい?)で,手荷物の取扱いを容易にしている.
4-6. 照明
照明は白色蛍光灯とした。設置数はそのうち算出する。このうち、2400形と2450形は12本、2500形は14本の照明については非常時に蓄電池から直流 100 V 電源が供給され、他の照明が消灯しても点灯し続けるようにした。
4-7. 車内案内表示装置
各側引戸の上、側引戸間天井、車端部天井の計 10 箇所にLCD式車内案内表示装置を各箇所 1 面設置した。各面 xx:y サイズのワイドモニタとし、停車駅や駅の施設等を案内する。
4-8. フリースペース
各車両の山側後位(果最島造船所に向かって左後ろ)にフリースペースを 1 箇所設置し、乗務員との双方向通話が可能な車内通報装置を設けた。立席としても快適に利用できるように壁に緩衝材を設置して寄り掛かれるようにしている。
4-9. 空気調和装置
空気調和装置は,冷房装置とした.三相交流440Vで駆動する.強制換気装置を併設している.
強制換気装置は直流 100 V 電源で駆動し,電源喪失時においても蓄電池からの電源で駆動できるようにしている.
5. 運転台
5-1. 主幹制御器
主幹制御器は,回生・電気ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキの採用に伴い,T形ワンハンドルマスコンとした.これにはデッドマン装置が付加されており,走行中に両手を離したときは自動的に常用最大ブレーキが掛かる仕組みとしている.さらに,手を放してから 5 秒経過すると自動的に非常ブレーキが作用するようにしている.また,両手が離れている状態では,ノッチが入らないようにしている.
原則として回生ブレーキが優先的に動作するが,回生ブレーキが不足する場合は電気ブレーキが作用する.それでも制動力が不足する場合において,空気ブレーキが作用する仕組みとしている.
5-2. 運転台高さ
従前の車両と同じである.
6. 走行装置
6-1. 走り装置
台車は,車体支持装置をインダイレクトマウント式,軸箱支持装置を積層ゴム片支持式とした.
固定軸距は,従来の車両と同じく 2000 mm である.
駆動方式は,平行カルダン方式であるが,継手の方式は考えていない.
6-2. 主制御装置
主制御装置は,VVVFインバーターとした.VVVFインバーターは 2 群搭載し,1 群あたり 4 台の主電動機に三相交流を供給する.
SIV故障時は,VVVFインバーターのうち1群をCVCF制御に切換えることによって,故障したSIVの代替となるようにした.
なお,従来の車両と連結したときは,連結相手に性能を合わせることができるようにした.
6-3. 主電動機
主電動機は,三相かご形誘導電動機とした.本島で運行されている車両に多く使用されている主電動機を使用することにより,製造費削減に努めた。
6-4. 補助制御装置
補助制御装置は、静止型インバータ(SIV)を採用した.1群のみとし,三相交流 440 V を出力する.
素子は IGBT 素子である.
故障時は,主制御装置の 1 群(瑞霞電鉄では第 2 群)をCVCF制御にすることでSIVの代わりを担う VVVF/SIV 切換冗長方式 を採用した.
容量は分かりかねるが,機器等の動作に十分な容量としている.
6-5. 制動装置
制動装置は,回生・発電制動併用電気指令式空気ブレーキとした.なお、2000形 及び 2030形 並びに 2050形 及び 2080形 にブレーキ読替装置を搭載し,従前の形列と連結できるようにした.
7. 各種機器類
7-1. 集電装置
集電装置は,2100形の屋根上にシングルアーム式パンタグラフを 2 基搭載した.
7-2. 空気圧縮機
空気圧縮機は,2000形 及び 2030形 並びに 2050形 及び 2080形 に,三相交流 440 V で駆動する,容量 1000 L/min の低騒音型スクロール式電動空気圧縮機 を 1 基ずつ搭載した.
7-3. 屋根上機器
各車両の屋根上に,空気調和装置と強制換気装置を 1 基ずつ搭載した.
2000形 及び 2030形 並びに 2050形 及び 2080形 は,直流 100 V 用蓄電池と発電ブレーキ用抵抗器を搭載し,2100形 及び 2130形 は,集電装置を 2 基搭載している.
7-4. その他機器
車外スピーカ装置を新たに採用した.ホーム上の旅客に向けた案内又は注意喚起等が行えると同時に,係員に対しても業務連絡や注意喚起等を行うことが可能になる.
8. 車両性能
最高運転速度は 60 km/h,起動加速度は 2.81 km/h/sとした.
9. おわりに
2016年4月2日 に運行を開始してから,次のことが新たに判明した.
一つ,他編成との連結時において,編成間を通り抜けることができない構造は,非常事態において不都合である.そのため,今後は可能な限り,他編成との連結を行わない運用に優先的に投入するよう配慮する.
二つ,側引戸に黄色を配したが,これには副次的な効果があった.閉扉時に側引戸に旅客の手荷物が挟まれたとき,ホーム上で立哨する係員がその状況を認めやすくなった.安全性の向上に資するものであり,今後導入される新型車両にも継続して採用するものとする.
10. 参考文献
・鉄道技術ポケットブック編集委員会『鉄道技術ポケットブック』(2012)オーム社 pp.115-116
・(一社)日本鉄道車両機械技術協会『補助回路システム』(2021)(一社)日本鉄道車両機械技術協会
・JRE E257系電車
2000形 |
2050形 | 2100形 | 2030形 | 2080形 | 2130形 | |
定員 |
97人 (座席28人 +立席69人) |
97人 (座席28人 +立席69人) |
108人 (座席34人 +立席74人) |
92人 (座席36人 +立席56人) |
92人 (座席36人 +立席56人) |
101人 (座席57人 +立席44人) |
重量 |
34.7 t | 34.6 t | 32.7 t | 34.7 t | 34.6 t | 32.7 t |
連結面間距離 |
15 250 mm | |||||
車体長 |
14 800 mm | 14 800 mm | 14 650 mm | 14 800 mm | 14 800 mm | 14 650 mm |
車体幅 |
2750 mm | |||||
車体高 |
4000 mm | |||||
台車中心間距離 |
9250 mm | |||||
固定軸距 |
2000 mm | |||||
主電動機 |
三相かご型誘導電動機 定格出力 : 200kW(1時間) 線間電圧 : 1100 V | |||||
2 台 | 2 台 | 4 台 | 2 台 | 2 台 | 4 台 | |
主制御機器 |
IGBT-VVVFインバータ制御 | |||||
加速度 |
2.81 km/h/s (0.781 m/s^2) | |||||
減速度 |
4.0 km/h/s(常用),4.5 km/h/s(非常) | |||||
最高運転速度 |
60 km/h | |||||
車体 |
先頭部・床下カバー:FRP、その他:ステンレス | |||||
台車 |
車体支持装置 | インダイレクトマウント式 | ||||
軸箱支持方式 | 積層ゴム片支持式 | |||||
ブレーキ方式 | 回生・発電ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキ(ブレーキ読み替え装置付) |